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『松ヶ根乱射事件』山下敦弘監督 名古屋プロモーション同行記

野心作を引っ提げて来名した山下敦弘監督の1日に密着!

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『どんてん生活』『ばかのハコ船』『リアリズムの宿』など独自の世界観で内外の多くのファンを魅了している山下敦弘監督。そんな彼がロッテルダム国際映画祭への参加と次作『天然コケッコー』の仕上げの合間をぬって、新作『松ヶ根乱射事件』の名古屋プロモーションで来名した。>>>

ここでは、そんな山下監督の1日に密着。
取材先での印象的なコメントや移動中の雑談などから若き異才の素顔に迫ります。
(※注意:『松ヶ根乱射事件』の物語の核心に触れている部分もあります。映画をご覧になってからお読みください。その方が楽しんでいただけると思います)

●2月6日(火)午前10時33分。
山下敦弘監督が名古屋駅に到着。帽子をちょこんと被り、オレンジのマウンテンコートに巨大なバックパック、メガネにヒゲ面というお馴染みの風貌の監督は遠目にもすぐ分かる。
来名は、昨年暮れの「ガンダーラ映画祭」にゲスト参加して以来。簡単に挨拶をして最初の取材先である中日新聞へと向かう。その道すがら『ユメ十夜』の話に。本当は別の話をやりたかったが、それはすでに監督が決まっていたので別の話を担当することになったこと、監督した第八夜にやれなかったほかの話の要素をこっそり入れたという裏話を教えてくれた。


●午前11時00分~中日新聞取材。
記者の岩田さんの巧みな質問に、さっきまで眠いと言っていた監督も次第に饒舌に。
「(好青年っぽい印象がいまも変わらない)三浦(友和)さんの色を消すことを一生懸命やりました。『台風クラブ』の三浦さんをイメージしてたんです。そんな話をしたら、三浦さんも『実は、あの役は気に入っていたんだ』って話してくれましたね」。
「オチは最近舞台(演劇)をいっぱい観ていたことが影響しているかもしれません。そう言えば、舞台を観に行くと、行定(勲)監督とよく会って。あんなに忙しそうなのに、よく時間あるなと思いますね」。取材の後半では、岩田さんが質問したわけでもないのに、「僕の彼女は『この映画大嫌い!』って言うんですよ。 『あんたは、こういうふうにしか人を見られないからダメなんだ』って。確かに僕は人を斜めに見る癖があるんですよ」と言いながら、ちょっとヘコんでいたのが山下監督らしい。
取材後、中日新聞名物(?)の飛行機の前で写真をパチリ。なんだか、どっかの探検から帰ってきたみたい。

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●午後0時15分~ 
今池に移動して、三重テレビ「シネマクルーズ」の収録。
「すごく面白かったです。聞きたいことがいっぱいあるんですけど、何から聞いたらいいか分からなくて」とパーソナリティの松岡ひとみさん。ヘンで笑える細かいシーンの話に花が咲く。
「死体が実は生きていたっていうエピソードは、新聞で見つけた本当の事件がヒントになってるんですよ」。「銀行員の人、いいでしょ。彼は舞台の人(自主製作映画『このすばらしきせかい』などにも出ている古舘寛治)で、西岡が去った後の芝居も続けてくれて見事でしたね」

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●午後1時15分~ 
東海ラジオ「ミッドナイト東海」収録。
ここではディレクターの秋田さんが、山下監督の学生時代の活動やこれまでの監督作品についても丁寧に聞き出し、山下ワールドが俯瞰的に分かるひとときに。それにしても、監督も話が上手い。今回が3回目の名古屋でのプロモーションだが、前からこんなに上手かったっけ? と、しばし聞き入ってしまった。

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●午後1時50分~ 
待ちに待った昼ごはん。というこで、伏見の「宮鍵」でもちろんひつまぶし。山下監督も何度も食べているので、もはや店の人の食べ方の説明は不要だ。食べながら、「(ヒロインの)夏帆は可愛いですよ。彼女は女優の自覚はまだないけど、主役ってことは意識してましたね」などなど、『天然コケッコー』の話に。

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●午後2時30分~ 
朝日新聞取材。「山下監督の作品は、何が面白いのか? 観た人が探す楽しさがある」と記者の佐藤さん。「『ユメ十夜』の奇妙な生物を(まるでヘンなものではなく、自然にいるもののように)放ったらかしにしておく感覚と共通するものがありますね」。それに対して山下監督が「ハッタリものの映画の醍醐味ですよね。僕らが学生のころには『食人族』みたいな映画があって、それはどう考えてもウソなんですよ。あれと同じように、“松ヶ根”を観た100人に1人ぐらいは本当だと思う人も出てきて欲しいですね」

●午後3時45分~ 
名古屋クラウンホテルのラウンジで、雑誌&ウエブサイトの合同会見。何度も会っているかお馴染みの記者ばかりなので、茶飲み話のように話が進む。「西岡のイメージは、最初は貴乃花だったんですよ。シナリオを書いている当時、ニュースでいつも記者会見をしていて、こういう身体のデカい人がキレたら一番怖いよなって話からスタートしたんですけど、木村(祐一)さんと(そのパートナー役の)川越(美和)さんが浮かんでからはふたりにすり寄っていく形になって。
だから、元の設定より可愛らしくなりましたね」。「春子は、自分の中でも挑戦だったんですよね。見る人によっては、あのキャラクターは何なの?って、突っ込まれそうなキャラクターなんで、絶対にこれは中途半端に扱ったらマズいなって思ってました。だから、演じる人は僕の微妙なニュアンスが伝わる人じゃないと難しいなと思ったし、ヘンに色がついてる役者さんだとそのイメージを崩すのが大変だろうなと思ったので、結構いろんな人に会って。で、安藤(玉恵)さんに会った瞬間に……彼女は僕と同い年で今年31歳なんですけど、10代にしか見えない。それに後からほかの人に聞いたんですけど、役作りのためにちゃんと太ったりしてくれて。年が同じってこともあったのかもしれないけど、すごく細かいことが伝わったなっていう気はしますね。
単純に自分がいちばん伝えやすいのって同世代なんですよね。同い年の人じゃないと分からない共通言語がやっぱりあるんですよ。同じテレビを観てるし、同じ音楽を聴いてるっていう。『あのテレビのああいう人っているじゃないですか?』っていうのは、やっぱり同世代じゃないと伝わらなかったと思うし。春子に関しても『クラスにこういう子っていませんでした?』って話をいろんな役者さんにしてったんですけど、いちばん話が通じたのが安藤さんだったんです」


●午後5時00分~ 
ぴあ中部版取材。
会議室の窓の外が夕景から日暮れに変わる中、映画担当の小澤さんの質問に、山下監督はそれまでとまったく変わらないペースと表情で答えていく。「銃の乱射シーンにこだわったのは、(長編第1作『どんてん生活』以来すべての長編でコンビを組んでいる脚本の)向井(康介)なんですよ。“映画史上最も情けない乱射”ですけどね(笑)」。
取材の後、ぴあ巻末の「今号の客人」のコーナーでも紹介してくれるというので、編集部に移動。忙しそうにしている編集の人たちをバックに、山下監督が写真に収まる。さらに、編集部に映画のポスターを貼ってくれるというので、山下監督がサインをすることに。これで、心優しいぴあの人たちはみんな映画館に足を運んでくれるに違いない。

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●午後6時00分~ 
最後の取材は今池に再び戻り、名古屋大学映画研究会の機関誌、映画的、山下監督のロングインタビューは今回が3回目で、学生相手ということもあって監督も「この前、部屋の掃除をしてたら前の映画的が出てきて。ここではほかでは喋らないことも喋っちゃうんだよね」とリラックスした様子。その光景はまるで部室で先輩が後輩に教えているみたいだ。

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「(新井浩文が演じる主人公の)光太郎がネズミを殺す薬を撒きに行くシーンは、(今村昌平監督の)『うなぎ』のオープニングで、役所広司さんが包丁を持って『妻を殺しました』って言いに行くシーンのしょぼいパロディなんですよ(笑)」。「春子の赤ちゃんが生まれて、西岡たちに居座られるあの最悪なラストを平和に見える人は、この映画を笑って観られる人で。そうじゃない人は“あーあ”って感じるかもしれないけど、僕は平和だなと思いながらやったんです」


●午後7時30分~ 
今池の居酒屋「きも善」で夕食をかねて打ち上げ。
午前中からの分刻みの取材だったにも関わらず、山下監督はまったく疲れを見せず、相変わらず飄々としている。そこで、何となく思っていたことを聞いてみた。
「『松ヶ根乱射事件』を観たときに、森田芳光監督が『メイン・テーマ』の前に『ときめきに死す』を撮ったときと同じような印象を受けました。つまり、次に(ヒットがある程度読める)『天然コケッコー』があるから、やりたいことを挑戦してみたって感じを受けるんですけど、どうですか?」「あっ、確かにそういう感じはありましたね。これと、『天然コケッコー』の次に撮ろうと思っている映画は、僕と向井のための映画です」。それを聞いて、前回の『リンダ リンダ リンダ』のプロモーションで来名したときの打ち上げで、「青春映画が得意っていうイメージがつくのはイヤなんですよ。だから、次は『リンダ リンダ リンダ』の観客を裏切るまったく違う映画です」と言っていたのを思い出した。それが『松ヶ根乱射事件』になったわけだが、なるほど、そうやって自分のバランスをとっているのだ。飄々とした笑顔で、したたかに強固に己の意思を貫く山下監督。その後の2次会でも、まったく崩れることなく映画談義に花を咲かせていたが、この若き異才の頭の中では我々には予想のできない面白くてヘンな世界がまだまだ渦巻いているに違いない。恐るべし!(イソガイマサト)

■PROFILE
山下敦弘/NOBUHIRO YAMASHITA
1976年8月29日、愛知県出身。’99年、大阪芸術大学映像学科の卒業制作として初の長編『どんてん生活』を発表。03年、東京国際映画祭の助成金をもとに製作した第2作『ばかのハコ船』でも、独自の笑いを印象づける。’04年には、つげ義春のコミックの映画化『リアリズムの宿』と、兄と妹の禁断のエロスという新しいジャンルに挑んだ『くりいむレモン』を発表。’05年の『リンダ リンダ リンダ』の大ヒットで一躍注目を集めたのも記憶に新しい。

『松ヶ根乱射事件』
4/20(金)まで名古屋はシネマテークで上映
90年代初頭のとある田舎町・松ヶ根。警察官の光太郎は、事件という事件のない退屈な毎日にうんざりしていた。実家は畜産業を営んでいるのだが、ぐうたらな父親・豊道は近くの床屋に居候中。
そんなある日、兄の光が起こしたひき逃げ事件をきっかけに、訳ありっぽい流れ者のカップル、西岡とみゆきが町に居座り、金塊騒動、ゆすり、床屋の娘・春子の妊娠と、平穏だった町に波風が立ち始めるが……。
■監督/山下敦弘 ■出演/新井浩文、山中崇、木村祐一、川越美和、三浦友和、キムラ緑子、榎木兵衛、西尾まり、烏丸せつこ、安藤玉恵、光石研、でんでん


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